2018年12月05日

テレちゃんの階段

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自宅二階の一室が、テレちゃん専用の部屋だった。

テレちゃんは、もともとは野良である。
先住猫のミカちゃんと仲良くなれるまでは、ある程度、部屋を分けておく必要があった。


外で自由気ままに暮らしていたテレちゃんにとって、
閉ざされた家の中で生きることは、相当なストレスとなる。
私はせめて少しでも、テレちゃんに良い環境を与えてあげたかった。

二階の一室だけでなく、
もっと自由に家の中を歩き回れるようにしなければ……。

そんなわけで、一階をテレちゃん、二階をチロ&ミカちゃんの生活スペースにしようと考えた。



ところが、テレちゃんを抱っこして強制的に一階のリビングに連れてきても、
すぐに二階の自分の部屋に戻って行ってしまう。

一階の部屋は、まだ未知の場所。怖いのだろう。

私は、テレちゃんが自分から階下に降りてくるのを待つことにした。
焦りは禁物なのだ。



けれど数か月が過ぎても、
テレちゃんの生活ベースは、相変わらず二階の一室のままだった。

みんなが寝静まった頃に、こっそり降りてきて
リビングのコタツに入っていたりすることはあるものの、
そうでないときは、階段の影から、一階の様子を静かにうかがっている。


一階と二階をつなぐ階段が、テレちゃんのボーダーラインになっていた。

「テレちゃん、こっちおいで〜」と優しく言っても、降りてこない。
階段の真ん中で、じっと私の顔をみつめている。
白熱灯のオレンジの灯りの下で、テレちゃんの瞳はまあるく黒目を帯び、
ますます愛おしく思えた。




そんなテレちゃんが、亡くなる前日の夜、
初めて、自分から一階のリビングへとやってきた。

とても驚いたし、うれしかった。本当に。
自発的に来てくれるのを、ずっと待っていたから。

ちょうど焼き魚があったので、その身をほぐし、テレちゃんに差し出すと、
テレちゃんは私の指にしゃぶりつくようにして、
ハグハグと、勢いよく食べてくれた。


本当のことを言うと、テレちゃんは長い間、酷い口内炎に苦しまされていた。

手作り食をペースト状にして与えたり、サプリメントをあげてみたり、
マヌカハニーや熊笹、いろんなことを試したけれど、
大きな効果はなかなか得られない。

頼みの綱のステロイドも、あまり効いているようには思えなかった。

そんなテレちゃんが、痛み声をあげることなく、
私の目の前で、おいしそうに魚を食べている。

これは本当に、心底うれしかった。

テレちゃんはきっと良くなる。絶対、元気になってくれる……。
私は、疑いのない希望を感じていた。

テレちゃんが次の日 死んでしまうなんて、
私は、これっぽっちも思ってなどいなかったのだ。
まったく。微塵たりとも。


今考えれば、これはテレちゃんの「お別れのあいさつ」だったのだろうと思う。
テレちゃんは最後の夜を、私と一緒に過ごしてくれたのだ。

明け方までテレちゃんは、ずっとコタツに入っていた。
徹夜する私の足元で、甘えたような顔をして、幸せそうに、丸くなっていた。



思い返したなら、ぶーちゃんのときも、そうだった。
亡くなる前日の朝、私の枕元にとびのってきたのだ。

そんな動きなどできないほど、日に日に弱っていくばかりだったから、
ぶーちゃんが、久しぶりに甘えてきてくれて、とても嬉しかったのを覚えている。

このときも私は、これならきっとぶーちゃんは大丈夫だと、
必ずまたきっと良くなってくれると、かすかな希望を抱いていた……。



階段をのぼるテレちゃんの姿。
ずっと描きたいと思っていた。
けど、なかなかできずにいた。

五年目を迎えた今。やっと描きとどめることができてうれしい。


私にはまだまだ、描きたい絵がある。
描いておかなければならない。もっと。もっと。





posted by ただゆめこ at 15:50| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする